クリニックの職員定着には何が必要?患者さんにも職員にも選ばれる職場づくり

こんにちは、新潟市で活動しているおっきなでんしゃ社会保険労務士事務所、

社会保険労務士の関谷です。

社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。

「患者さんには丁寧に対応してほしい」「できれば職員にも長く働いてほしい」。

この2つは別々の課題に見えますが、
院長先生の考え方が共有されていること、
役割が分かりやすいこと、
職員同士が連携できることなど、共通する土台があります。

この記事では、患者さんへの対応と職員の採用・定着を一緒に考えながら、クリニックの職場づくりについて整理します。

目次

患者さんに選ばれることと、職員が長く働き続けることは関係するのでしょうか?

患者満足と職員の定着を同じものとして考えることはできませんが、院内の連携や働きやすさなど、両方を支える共通の土台があります。

患者さんがクリニックを評価するときには、診療内容だけでなく、

「電話でどのように対応されたか」
「受付でどのように案内されたか」
「看護師からどのように声をかけてもらったか」
「院内の雰囲気はどうだったか」

といった経験も印象に残ります。

私自身、クリニックの職場づくりを考えるうえで、この「院長先生や医師の診療にたどり着くまでの患者さんの体験」はとても重要だと考えています。

患者さんは、院長先生や医師に診てもらう前に、電話、受付、看護師など、さまざまなスタッフと接することになります。

たとえば、予約や問い合わせのために電話をかければ、最初に話すのは受付スタッフかもしれません。
来院すれば受付で案内を受け、診察前には看護師と話すこともあります。

つまり、多くの場合、患者さんがそのクリニックに対して最初に抱く印象は、医師の診療よりも前につくられています。

ここで患者さんに悪い印象を与えてしまうと、その後に院長先生や医師が丁寧で良い診療をしても、

最初に感じた印象がなかなか拭い切れないこともあります。

反対に、電話や受付で安心できる対応をしてもらい、看護師からも丁寧に声をかけてもらえれば、

「ここなら安心して診てもらえそう」

という気持ちで診察を受けられるかもしれません。

そのため私は、
患者さんと最初に接するスタッフの対応は、医院全体のイメージをつくるうえで、とても重要なものだと考えています。

もちろん、これは「スタッフは常に完璧な接遇をしなければならない」という意味ではありません。

受付が混雑していたり、電話が重なっていたり、急な患者対応が必要になったりと、クリニックの現場にはさまざまな事情があります。

だからこそ、スタッフ個人に

「もっと丁寧にしてください」

と求めるだけではなく、

・忙しいときは誰がフォローするのか
・判断に迷ったときは誰へ相談するのか
・患者さんへの案内方法をどう統一するのか
・難しい患者対応を誰が引き継ぐのか

といった院内の仕組みまで整えることが大切です。

こうした患者さんとの接点を支えているのが、受付スタッフや看護師をはじめとした院内の職員です。

だからといって、

「職員が満足していれば、患者さんにも必ず選ばれる」

と単純に結び付けることはできません。

診療内容や立地、診療時間など、患者さんがクリニックを選ぶ理由はさまざまだからです。

一方で、

・職員同士で必要な情報が共有されている
・自分の役割が分かっている
・困ったときに相談できる
・院長先生とスタッフの認識が大きくずれていない

といった職場環境は、職員にとって働きやすいだけでなく、安定した患者対応にもつながりやすいと考えられます。

厚生労働省も、医療機関の勤務環境改善について、幅広い医療スタッフが協力して働きやすい環境をつくることにより、医療の質を高め、患者の安全と健康の確保につなげる考え方を示しています。

つまり、

「患者さんにどう接するか」だけを考えるのではなく、その対応をスタッフが無理なく続けられる職場になっているか

まで考えてみることが大切です。

クリニックの「らしさ」は誰がつくっているのでしょうか?

クリニックの印象は院長先生一人ではなく、患者さんと接する職員の日々の行動によってもつくられます。

院長先生の中では、

「患者さんの話をしっかり聞くクリニックにしたい」

「できるだけ安心して帰ってもらいたい」

といった考えが明確でも、その考えがスタッフまで同じように共有されているとは限りません。

たとえば、院長先生が「丁寧に対応してほしい」と考えていたとしても、スタッフからすると、

「どこまで説明すればよいのか」
「混雑しているときも同じ対応なのか」
「判断できない質問をされたら誰に確認するのか」

までは分からないことがあります。

この状態で「もっと丁寧に対応してください」とだけ伝えても、人によって解釈が変わってしまいます。

クリニックの「らしさ」を院内で共有するには、

理念を掲げるだけではなく、日常の行動まで落とし込むこと

が必要です。

たとえば、

「患者さんを大切にする」

という言葉だけではなく、

「長くお待たせしているときには一度声をかける」
「分からない質問には曖昧に答えず、確認してから案内する」

といったところまで具体的にすると、スタッフも行動しやすくなります。

患者さんから見れば、受付スタッフも看護師も院長先生も、すべて「その医院の人」です。

一人ひとりの対応が積み重なって、医院全体の印象がつくられていくと考えると、職員への情報共有や教育も単なる接遇研修ではなく、医院として大切にしたいことを共有する取り組みと捉えやすくなります。

職員が働きやすいクリニックには、どのような共通点があるのでしょうか?

給与や休日だけでなく、役割の分かりやすさや相談のしやすさなど、毎日の仕事の進めやすさも職場環境を考える重要な要素です。

「職員に長く働いてもらうには、給与を上げなければいけない」

と考えることもあるかもしれません。

もちろん、賃金や休日などの労働条件は重要です。

ただ、職場づくりはそれだけではありません。

厚生労働省も、看護職員の確保について、労働環境などの雇用管理を改善し、定着促進や離職防止につなげることが重要だとしています。

誰に聞けばよいか分かる

判断に迷ったとき、
「誰に聞けばいいのか分からない」
という状態が毎日続けば、それだけでも負担になります。
院長先生、事務長、リーダーなど、内容に応じた相談先を整理しておくことが役立ちます。

役割が曖昧になっていない

「気付いた人がやる」という仕事が多すぎると、同じ人に仕事が偏ることがあります。
誰が担当する仕事なのかを整理することは、業務効率だけでなく、
職員間の不公平感を減らすという意味でも重要です。

困ったときに相談できる

患者対応で困ったときや、人間関係で悩んだときに相談できる仕組みがあることも大切です。
特に少人数のクリニックでは、人間関係の影響を受けやすいため、

「問題が大きくなってから院長先生が知る」

という状態をできるだけ防ぐことも労務管理の一つです。

厚生労働省の医療勤務環境改善マネジメントシステムでも、病院だけでなく診療所についても、医師、看護師などの医療従事者やその他の職員が協力しながら、勤務環境の改善を継続していく仕組みが示されています。

院長先生の考えを職員に伝えるには、どうすればよいのでしょうか?

抽象的な理念だけではなく、「実際にどのような行動をしてほしいのか」まで具体化することがポイントです。

クリニックの職場づくりで意外と難しいのが、

院長先生が当たり前だと思っていることを、職員も同じように理解しているとは限らない

という点です。

たとえば、

「患者さんには柔軟に対応してほしい」

と伝えたとします。

しかし、スタッフからすると、

「予約時間を過ぎても受け付けるのか」
「診療終了間際の電話にはどう対応するのか」
「患者さんから特別な依頼があった場合、どこまで応じるのか」

など、具体的な場面では判断に迷います。

その結果、スタッフによって対応が変わることがあります。

理念から具体的な行動へ落とし込む

たとえば、

大切にしたいこと

患者さんが安心して受診できるクリニックにする

具体的な行動

分からないことを聞かれたときは、曖昧な回答をせず担当者へ確認する

院内ルール

医療上の判断が必要な質問は、院長先生や所定の医療職へ確認する

というように整理すると、職員も判断しやすくなります。

院長先生の思いを伝えることと、職員へ精神論を求めることは違います。

職員が実際に動けるところまで仕組みにすることがポイントです。

また、院長先生自身が日頃からどのような行動をしているかも、職員へのメッセージになります。

「患者さんには丁寧に接してほしい」と伝えながら、忙しいときにはスタッフへの話し方が厳しくなる、
といった状況が続けば、職員は何を基準にすればよいのか迷ってしまいます。

言葉だけでなく、日々の行動も含めて院長先生の考えを伝えていくことが大切です。

採用の段階から職場づくりを考えるには、何を伝えればよいのでしょうか?

求人では条件だけでなく、「どのようなクリニックで、どのような働き方を大切にしているか」を具体的に伝えることも重要です。

クリニックの考え方は、入職してから初めて伝えるものとは限りません。

採用の段階から、

「どのようなクリニックを目指しているのか」
「スタッフにはどのような役割を期待しているのか」

を伝えておく方法もあります。

たとえば求人票では、

「アットホームな職場です」
「患者様に寄り添うクリニックです」

といった表現をよく見かけます。

もちろん間違いではありませんが、応募者からすると実際の働き方をイメージしづらいことがあります。

そこで、

「受付・看護師・院長先生がどのように情報共有しているのか」
「入職後はどの業務から覚えてもらうのか」
「判断に迷う患者対応は誰へ相談するのか」

など、実際の職場の様子が分かる情報を伝えると、応募者も自分に合う職場か考えやすくなります。

採用は単に「応募者を増やすこと」だけではありません。

入職後に、

「聞いていた話と違った」

という認識のずれをできるだけ少なくすることも、定着を考えるうえでは重要です。

人材確保について「魅力ある職場づくり」を進めることは採用と定着の向上にとても重要です。

患者対応と職員定着で勘違いしやすいポイントは?

良い患者対応を求めることと、職員へ無理な対応を求めることは別であり、職員を守る仕組みも必要です。

勘違いしやすいポイント:「患者さん第一なら、できる限り要望に応えるべき」

患者さんを大切にすることは、医療機関として重要な考え方です。

しかし、

「患者さんを大切にする」=「どんな要望にもスタッフが応じる」

ではありません。

たとえば、暴言や威圧的な言動、過度な要求などがあった場合まで、

「患者さんだから我慢してください」

としてしまうと、職員が安心して働けなくなります。

厚生労働省も、医療現場における暴力・ハラスメント対策について、医療従事者の離職防止や勤務環境改善の観点から重視しています。

患者さんへ丁寧に対応することと、職員を守ることは両立させて考える必要があります。

医院として気をつけたいポイント

たとえば、

  • 困難な患者対応を一人で抱え込ませない
  • どの段階で院長先生や責任者へ引き継ぐか決めておく
  • 暴言やハラスメントがあった場合の対応方針を共有する
  • 職員から相談があったときの窓口を決める
  • 特定のスタッフだけが難しい対応を担当し続けないようにする

といった準備が考えられます。

患者さんへのサービスを良くしようとした結果、職員の負担だけが増えてしまう状況は避けたいところです。

むしろ、安心して働けるからこそ、患者さんにも落ち着いて対応できるという視点を持っておくことが大切だと思います。

クリニックの職場づくりは、どこから始めればよいのでしょうか?

大きな制度を新しくつくるより、まず現在の職場で起きている小さな「困りごと」を整理するところから始められます。

職場づくりというと、

「人事制度を作らなければいけない」
「評価制度を導入しなければいけない」

と大きく考えてしまうことがあります。

しかし、最初からそこまで行う必要はありません。

厚生労働省の医療勤務環境改善マネジメントシステムでも、各医療機関が現状の把握・分析や課題の抽出を行い、できるところから改善計画を進める考え方が示されています。

クリニックなら、まずは次のように進めてみる方法があります。

STEP
職員が困っていることを書き出す

たとえば、

「患者対応の判断に迷う」
「休みのときに引き継げない」
「誰が担当なのか分からない仕事がある」
「院長先生への確認待ちが多い」

といったことです。

患者対応だけでなく、業務全体について確認してみるとよいでしょう。

STEP
院長先生が困っていることも書き出す

職員だけでなく、院長先生側の困りごとも整理します。

「何度説明しても対応が統一されない」
「細かな判断まで自分に集中する」
「採用してもなかなか定着しない」

などがあるかもしれません。

STEP
双方の認識がずれている部分を探す

たとえば、

院長先生「ある程度は自分たちで判断してほしい」

スタッフ「勝手に判断して怒られたくない」

という状態であれば、能力の問題ではなく、判断できる範囲が共有されていないことが原因かもしれません。

患者対応についても、

院長先生「患者さんには柔軟に対応してほしい」

スタッフ「どこまで対応してよいのか分からない」

という認識のずれがあるかもしれません。

STEP
小さなルールを一つ決める

一度にすべて改善しようとせず、

「この問い合わせの場合は受付でここまで対応する」
「判断できない場合はこの人へ確認する」
「待ち時間が長くなった場合はこのタイミングで声をかける」

など、一つずつ決めます。

STEP
実際に運用して見直す

一度決めたルールが現場に合わなければ変更します。

職場づくりは、完成した制度を一度作って終わりではありません。

厚生労働省の指針でも、現状分析、改善目標・改善計画の作成、実施、評価、見直しを継続して行う仕組みが示されています。

クリニックの採用・定着についてよくある質問

職員の定着には一つの正解があるわけではなく、自院で起きている課題を具体的に把握することが出発点です。

Q.給与を上げれば職員は定着しますか?

給与は重要な労働条件の一つですが、それだけで定着が決まるとは言い切れません。

業務量、人間関係、休日、働く時間、役割の分かりやすさ、相談のしやすさなど、さまざまな要素があります。

厚生労働省も、看護職員の確保について、労働環境などを含めた雇用管理の改善による定着促進・離職防止を重視しています。

まず、

「なぜ辞めるのか」を想像だけで決めないこと

が大切です。

退職理由だけでなく、日頃の面談やコミュニケーションから、現在働いている職員がどのような点に困っているのか確認する方法もあります。

Q.スタッフの意見を聞くと、要望ばかり増えませんか?

意見を聞くことと、すべての要望を受け入れることは別です。

「なぜその要望が出たのか」を確認してみると、院内の仕組みの問題が見えることがあります。

たとえば、

「もっと人数を増やしてほしい」

という意見の背景に、

「電話が集中する時間帯に受付が一人になってしまう」

という具体的な問題があるかもしれません。

要望をそのまま採用するのではなく、背景にある困りごとを確認し、対応できるものとできないものを整理することが大切です。

Q.少人数のクリニックでも定期面談は必要でしょうか?

法律上、すべてのクリニックに定期面談そのものが一律に義務付けられているわけではありません。

ただ、人数が少ないからこそ、

「普段話しているから分かっているつもり」

になりやすい面もあります。

必ずしも正式な人事面談にする必要はなく、定期的に仕事上の困りごとや今後の働き方を確認する機会を設ける方法もあります。

日常会話では出にくい話を聞けることもありますので、職員との認識のずれを確認する機会として活用することもできます。

まとめ

患者さんへの良い対応を継続するためにも、その対応を支える職員が安心して働ける仕組みを一緒に整えることが大切です。

患者さんから選ばれるクリニックと、職員から選ばれる職場。

この2つを完全に同じものとして考えることはできません。

ただ、患者さんは院長先生や医師の診察を受ける前に、電話、受付、看護師など、多くの場合は何人かのスタッフと接しています。

そのため、診察室に入る前から、そのクリニックに対する印象はすでにつくられ始めています。

せっかく院長先生や医師が良い診療をしていても、その前の対応で患者さんに悪い印象を与えてしまえば、その印象がなかなか拭い切れないこともあります。

だからこそ、患者さんと最初に接するスタッフの役割はとても重要です。

一方で、そのことを理由にスタッフへ「もっと良い対応を」と求め続けるだけでは、長く安定した患者対応にはつながりません。

  • 院長先生の考えが共有されている
  • それぞれの役割が分かっている
  • 困ったときに相談できる
  • 職種を越えて必要な情報を共有できる
  • 職員が安心して働ける

こうした職場の土台があってこそ、患者さんへの対応も安定しやすくなります。

厚生労働省も、勤務環境の改善について、医療従事者が働きやすい環境を整えることが、人材の確保・定着や医療の質、患者満足、経営の安定化につながる好循環を生むという考え方を示しています。

患者さんに選ばれるクリニックを考えることと、職員が安心して働ける職場を考えることは、別々に見えて実はつながっています。

スタッフが自分の役割を理解し、安心して患者さんと接することができる環境を整えること。

それが結果として、医院全体の印象を支え、院長先生が診療に集中できる環境づくりにもつながっていくのではないでしょうか。

社会保険労務士 関谷聡のこの記事のポイント

患者さんに選ばれるクリニックづくりと職員の採用・定着は別々の課題ですが、患者さんと最初に接するスタッフが安心して対応できる職場環境を整えることは、医院全体の印象を支える重要な土台になります。

※雇用管理や医療従事者の勤務環境に関する制度・指針等は変更される場合があります。具体的な院内制度や労務管理を見直す際には、最新の法令・行政資料をご確認ください。

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この記事を書いた人

「おっきなでんしゃ社会保険労務士事務所」代表の関谷と申します。豊かな自然とあたたかい人々に恵まれたこの新潟の地で、家族とともに日々の暮らしを楽しみながら、社会保険労務士として地域の企業様中心にをサポートさせていただいております。

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