
こんにちは、新潟市で活動しているおっきなでんしゃ社会保険労務士事務所、社会保険労務士の関谷です。
社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。
厚生労働省が公表した「転職者実態調査」を見ると、転職者が勤務先を選ぶ際に重視しているのは、給与だけではないことが分かります。
今回は、調査結果を参考にしながら、クリニックが採用や職員の定着を考える際に、求人票・面接・入職後の教育でどのような点を意識するとよいのかを考えます。
転職者は給与だけで勤務先を選んでいるわけではありません
転職者実態調査からは、給与だけでなく仕事内容や経験を活かせる環境も勤務先選びの重要な要素であることが分かります。
厚生労働省は2026年9月25日、2025年「転職者実態調査」の結果を公表しました。
この調査は、常用労働者5人以上の約17,000事業所と、そこで働く転職者約13,000人を対象として行われたものです。
自己都合で前の勤務先を退職した理由を見ると、
・賃金が低かった……25.5%
・会社の将来に不安を感じた……25.2%
・仕事内容に不満があった……24.7%
となっています。
一方、現在の勤務先を選んだ理由では、
・仕事内容・職種……40.2%
・自分の技能・能力を活かせる……38.4%
・賃金以外の労働条件……23.1%
となっています。
もちろん、給与は転職先を選ぶうえで大切な条件です。
しかし、この結果を見ると、求職者は給与の金額だけを見て転職先を決めているわけではないことも分かります。
「そこで何をするのか」
「これまでの経験を活かせるのか」
「どのような働き方になるのか」
といった部分も、勤務先を選ぶ重要な判断材料になっています。
クリニックの求人では「どんな仕事なのか」を具体的に伝えることが大切です
求人票で仕事内容を具体的に伝えることで、求職者が入職後の働き方をイメージしやすくなります。
クリニックの求人票を作る際、給与や勤務時間、休日などの条件を整えることはもちろん重要です。
ただし、それだけでは求職者から見て、
「実際にどのような仕事をするのだろう」
という部分が分からないことがあります。
例えば医療事務であっても、
・受付
・会計
・電話対応
・レセプト業務
・診療補助
・カルテ入力
・院内清掃
など、クリニックによって任せる仕事は異なります。
同じ「医療事務募集」という求人でも、実際の仕事内容にはかなり違いがあります。
そのため、できるだけ具体的に仕事内容を書いておくことが大切です。
よくある誤解:「詳しく書くと応募者が減ってしまう」
求人票に仕事の大変な部分まで書くと、応募者が減ってしまうのではないかと心配になることがあります。
しかし、仕事内容を曖昧にしたまま採用すると、
「思っていた仕事と違った」
という入職後のミスマッチにつながることがあります。
応募者を増やすことだけではなく、自院に合う人から応募してもらうことも採用では重要です。
経験者採用では「経験をどう活かせるか」も重要です
経験者を採用したい場合は、経験年数だけでなく、その経験を入職後にどう活かせるのかを伝えることがポイントです。
今回の調査では、現在の勤務先を選んだ理由として「自分の技能・能力を活かせる」が38.4%となっています。
これは経験者採用を考えるクリニックにとって、特に参考になる数字だと思います。
求人では、
「医療事務経験者歓迎」
「看護師経験○年以上」
などと、求職者に経験を求めることがあります。
しかし、求職者の側から見ると、
「自分の経験をこの職場でどう活かせるのか」
という視点もあります。
例えば、
・レセプト経験者にはレセプト業務を中心に任せる
・後輩職員の教育にも少しずつ関わってもらう
・前職での業務改善経験を活かしてもらう
・看護師として経験してきた診療科の知識を活かしてもらう
など、入職後の役割を具体的に説明できると、働くイメージを持ってもらいやすくなります。
「即戦力がほしい」と考えるだけではなく、その方の経験を自院でどのように活かしてもらうのかまで考えておくことが大切です。
給与以外の働き方を分かりやすく伝えましょう
診療時間や休日だけでなく、残業や昼休み当番など実際の働き方を伝えることが入職後の認識違いを防ぐことにつながります。
今回の調査では、「賃金以外の労働条件」を理由に現在の勤務先を選んだ人も23.1%いました。
クリニックの場合、例えば次のような情報があります。
・休日・休診日
・残業の状況
・有給休暇の取得状況
・昼休みの過ごし方
・昼休み中の電話当番の有無
・土曜日勤務の頻度
・シフトの決め方
・子どもの行事などへの休みの取りやすさ
これらは求人票の「年間休日○日」という数字だけでは伝わりにくい部分です。
特にクリニックの場合は、診療時間と職員の実際の勤務時間が必ずしも同じとは限りません。
求人票や面接では、できるだけ実際の働き方が分かるように説明しておくことが大切です。
採用できた後の教育体制も定着につながります
採用後の教育担当者や習得する仕事をあらかじめ決めておくことで、新しく入った職員が安心して仕事を覚えやすくなります。
今回の調査では、転職者に教育訓練を実施した事業所は82.6%となっています。
クリニックの採用では、どうしても「経験者だからすぐできるだろう」と考えてしまうことがあります。
しかし、同じ職種の経験があっても、職場が変われば仕事の進め方は変わります。
例えば、
・電子カルテの操作
・受付や会計の流れ
・電話対応の方法
・患者さんへの説明方法
・院内での情報共有
・院長先生への報告方法
・他の職員との役割分担
などは、クリニックごとに異なります。
そのため、経験者であっても入職後の教育は必要です。
例えば入職後1~3か月について、
「誰が教えるのか」
「いつまでに何ができればよいのか」
を簡単に決めておくだけでも、教育する側とされる側の認識を合わせやすくなります。
勘違いしやすいポイント:経験者だから教育は必要ない?
経験者採用の場合でも、自院独自の仕事の進め方を覚えてもらう必要があります。
経験があることと、入職初日から自院の仕事をすべて理解していることは別の話です。
むしろ経験者だからこそ、
「前の職場ではこうだった」
という違いに戸惑うこともあります。
経験者の能力を活かすためにも、最初に自院のルールや仕事の流れを伝えることが重要です。
クリニックで見直したい採用・定着のチェックポイント
求人から入職後までを一連の流れとして見直すことで、採用条件と実際の職場とのずれを減らすことができます。
採用や定着に悩んでいる場合は、次のような項目を一度確認してみてください。
- 具体的な仕事内容が書かれているか
- 求める経験や能力が明確になっているか
- その経験を入職後にどう活かせるか説明できるか
- 勤務時間や休日だけでなく、実際の働き方が伝わる内容になっているか
今回の調査では、転職活動の方法として、
- 求人サイト等……45.1%
- ハローワーク等……29.6%
- 知人・友人等の縁故……22.2%
という結果も出ています。
一つの求人媒体だけに頼るのではなく、
- 求人サイト
- ハローワーク
- 自院ホームページ
- 職員からの紹介
など、複数の方法を組み合わせることも検討できます。
- 教育担当者が決まっているか
- 入職後1~3か月で覚えてもらう仕事が整理されているか
- 定期的に困っていることを確認しているか
- 求人時に伝えた仕事内容や働き方と実際に違いがないか
可能な範囲で退職理由を確認することも重要です。
同じ理由による退職が続いている場合には、採用方法だけではなく、職場環境や教育方法、仕事の分担などに改善できる部分がないかを確認してみる必要があります。
よくある質問
給与・求人票・教育を別々に考えるのではなく、採用から定着まで一つの流れとして整理することがポイントです。
Q. 給与を上げれば応募は増えるのでしょうか?
給与は重要な応募条件の一つです。
ただし、今回の調査からも分かるように、求職者は仕事内容や経験を活かせるかどうか、給与以外の労働条件なども見ています。
そのため、給与だけではなく求人内容全体を見直すことが大切です。
Q. 求人票にはどこまで詳しく書けばよいでしょうか?
少なくとも、入職後に担当する主な仕事内容は具体的に分かるようにしておくことをおすすめします。
特に、一般的な職種名からは分かりにくい仕事がある場合には、事前に伝えておくことで入職後の認識違いを減らせます。
Q. 経験者にも教育期間を設けた方がよいでしょうか?
経験者であっても、自院の仕事の進め方やルールを覚えてもらう期間は必要です。
「経験者だから任せる」だけではなく、最初に仕事の流れを伝え、その後徐々に任せる範囲を広げていく方がスムーズです。
まとめ
採用がうまくいかないとき、
「給与をもっと上げなければ採用できないのではないか」
と考えることがあります。
もちろん地域や職種ごとの賃金相場を確認することは重要です。
一方で、今回の転職者実態調査を見ると、転職者が勤務先を選ぶ理由は給与だけではありません。
- どのような仕事をするのか
- 自分の経験を活かせるのか
- どのような働き方なのか
- 入職後にきちんと仕事を教えてもらえるのか
こうした部分も、採用や定着を考えるうえで重要です。
なお、今回の調査は全国・全産業を対象としたもので、新潟県や看護師、医療事務など医療職だけを対象とした調査ではありません。
実際にクリニックの採用条件を検討するときには、全国統計だけで判断するのではなく、地域・職種ごとの求人状況や賃金水準と組み合わせて考えることが大切です。
求人票を出して終わりではなく、求人内容、面接、入職後の教育、定着までを一つの流れとして見直してみてはいかがでしょうか。

社会保険労務士 関谷聡のこの記事のポイント
クリニックの採用・定着では、給与だけでなく、仕事内容・経験を活かせる役割・実際の働き方・入職後の教育まで一体として考えることが大切です。
※本記事は2026年9月時点の公表資料をもとに一般的な考え方をまとめたものです。採用条件や労務管理については、個別の勤務実態や地域の採用状況などによって検討すべき内容が異なります。
【参考資料】
令和7年転職者実態調査の概況(厚生労働省)
令和7(2025)年「転職者実態調査」の結果を公表します(厚生労働省)
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当事務所では、「労使双方が制度を正しく理解し、日頃から話し合える職場づくりが、労使トラブルの予防につながる」と考えています。
労使トラブルは、問題が起きてから対応するよりも、未然に防ぐことが大切です。
トラブルの多くは、制度を知らなかったことや、事前の認識の違いから生じます。
日頃からルールを整え、制度を正しく理解しておくことで、防げるトラブルは少なくありません。
社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。
そのため、就業規則の作成・変更や労働・社会保険の各種手続きだけでなく、日々の労務相談を通じた「予防型」の労務管理にも力を入れています。
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といった採用・定着についてのお悩みも、お気軽にご相談ください。
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