職員からハラスメントの相談を受けたら?院長先生が最初にすべきこと

こんにちは、新潟市で活動しているおっきなでんしゃ社会保険労務士事務所、社会保険労務士の関谷です。

社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。

職員から突然、

「○○さんからハラスメントを受けています」

と相談されたら、院長先生はどのように対応すればよいのでしょうか。

大切なのは、その場ですぐ「それはパワハラだ」「それくらいではハラスメントではない」と結論を出すことではありません。

まず相談者の話を受け止め、現在の安全や就業状況を確認したうえで、本人の意向を確認しながら、必要な事実確認につなげていくことが重要です。

この記事では、クリニックでハラスメント相談を受けた場合の最初の対応を、実際の流れに沿って整理します。

目次

職員から突然「ハラスメントを受けています」と言われたら?

最初に必要なのはハラスメントかどうかの判定ではなく、相談者の話を聴き、状況と意向を把握することです。

例えば、ある職員が診療終了後に院長先生のところへ来て、

「少し相談したいことがあります。主任から毎日のように強く言われています。もう仕事に来るのがつらいです」

と話したとします。

院長先生としては、すぐに事情を知りたくなるかもしれません。

「主任はそんなことをする人ではないけどな」

「具体的に何を言われたの?」

「それくらいなら指導ではないの?」

あるいは、

「分かった。すぐ主任を呼んで確認する」

と対応したくなることもあるでしょう。

しかし、相談を受けた最初の段階では、まだ相談者側から話を聞き始めたばかりです。

ここで院長先生自身が結論を出してしまうと、その後の事実確認がその結論に引っ張られてしまう可能性があります。

最初の相談では、相談者が経験したことや現在の状況、本人がどのような対応を希望しているのかを正確に把握することが大切です。

まずは、

「相談してくれてありがとうございます。まず何があったのか話を聞かせてください」

というところから始めます。

最初の面談では何を確認すればよい?

初回相談では、出来事の内容だけでなく、相談者の現在の状態、希望、今後の事実確認についての意向まで確認します。

相談を受けたときは、すぐに「証拠を集めなければ」と考える前に、相談者が安心して話せる状態を作る必要があります。

できるだけ周囲に話が聞こえない場所を選び、相談者を急かさずに話を聴きます。

また、相談を受ける側の価値観やこれまでの人物評価をいったん脇に置き、まずは相談者が何を経験したと話しているのかを確認することが大切です。

STEP
まず現在の状況を確認する

最初に確認したいのは、

「今も被害が続いているのか」

です。

例えば、

・今日も行為者と同じ場所で勤務する予定なのか
・二人きりになる勤務があるのか
・強い精神的な負担が生じていないか
・出勤を続けることが難しい状態になっていないか

などです。

事実認定には一定の時間が必要になる場合があります。

しかし、その間も問題となる言動が続けば、相談者の負担がさらに大きくなる可能性があります。

そのため、「ハラスメントに当たるかどうか」の結論が出るまで何もしないのではなく、必要に応じて問題の拡大を防ぐための対応を考えます。

例えば、

・一時的に勤務場所を分ける
・シフトを調整する
・行為者との直接のやり取りを減らす

などの暫定的な対応を検討することもあります。

これは、この段階で行為者を「加害者」と認定するという意味ではありません。

事実確認が終わるまでの間、問題の拡大を防ぐための対応として考えるものです。

STEP
何があったのかを具体的に確認する

相談者の話は、

「いつも怒られる」

「無視されている」

「嫌がらせを受けている」

といった表現から始まることもあります。

その場合は、少しずつ具体的にしていきます。

例えば、

・いつ
・どこで
・誰から
・何を言われた、何をされた
・その場に誰がいた
・何回くらいあった
・メールやLINEなどの記録があるか
・その後どのような影響が出ているか

といった事項です。

ここで重要なのは、相談者を尋問するような聞き方をしないことです。

相談者が緊張していたり、出来事をうまく整理できていなかったりすることもあります。

そのため、話が前後してもすぐに矛盾と決めつけず、必要なことを一つずつ整理しながら確認していきます。

STEP
相談者が何を希望しているのかを確認する

非常に重要なのが、

「クリニックにどうしてほしいと思っているのか」

を確認することです。

例えば、

「まず話を聞いてもらいたかった」

という場合もあれば、

「相手にやめるよう伝えてほしい」

「一緒に勤務しないようにしてほしい」

「正式に調査してほしい」

という場合もあります。

相談を受けた側が良かれと思って先回りし過ぎると、相談者の意向とは違う方向に進んでしまうことがあります。

そのため、何があったのかだけでなく、

「クリニックにどのような対応を希望していますか」

と確認することも大切です。

ただし、相談者が、

「誰にも言わないでください」

と希望した場合でも、重大な被害が続いているなど、クリニックとして放置できない場合があります。

その場合は勝手に調査を始めるのではなく、

「このままにすると安全面で心配があります。どこまで確認を進められるか一緒に考えましょう」

と、今後の対応について丁寧に説明する必要があります。

STEP
記録を残す

相談内容については、

・相談日時
・相談者
・対応者
・相談者が話した具体的な事実
・現在の状況
・相談者の希望
・今後の対応

などを記録しておきます。

後から事実関係を確認する際、最初の相談内容を正確に振り返るためにも重要です。

特に小規模なクリニックでは、

「院長先生が覚えているから大丈夫」

となりやすいのですが、相談対応が長期化した場合には記憶だけでは正確な確認が難しくなります。

法律や裁判例では相談対応をどのように考えている?

事業主には相談体制の整備だけでなく、相談後に事実関係を迅速かつ正確に確認し、適切に対応することまで求められています。

ハラスメント対策では、相談窓口を設けるだけでは十分ではありません。

実際に相談があったときには、

・事実関係を迅速かつ正確に確認する
・必要に応じて相談者への配慮を行う
・行為者への対応を検討する
・再発防止策を講じる
・関係者のプライバシーを守る
・相談や事実確認への協力を理由とした不利益な扱いを防ぐ

といった対応まで含めて考える必要があります。

つまり、

「相談窓口を作っておけば終わり」ではなく、相談を受けた後にどう動くかまで準備しておくことが大切です。

新聞輸送事件

相談対応そのものについて参考になる裁判例として、新聞輸送事件(東京地方裁判所・平成22年10月29日判決)があります。

この事件では、女性従業員からセクシュアルハラスメントの被害申告を受けた総務部副部長が、行為者とされた従業員に電話で事情を聞き、その説明を早い段階で信用しました。

そして、被害を申し出た女性に対し、「セクハラではなく誤解である」という趣旨の判断を伝えるなどしました。

その後、別の担当者があらためて調査を行った結果、被害申告が事実であると判断されました。

裁判所は、当初相談を担当した総務部副部長について、調査方法が不適切で内容も不十分であり、公平・中立さに欠けていたと評価し、会社が行った降格処分を有効と判断しました。

この事件から学べる重要な点は、

相談を受けた担当者が、早い段階でどちらか一方の説明を信用し、結論を決めてしまわないこと

です。

クリニックでも、

「主任は長く勤務しているからそんなことはしない」

「この職員は以前から不満が多いから」

といった過去の印象を持っていることがあります。

しかし、相談対応では、それまでの人物評価と今回の事実確認を分けて考える必要があります。

相談を受けた後の事実確認はどう進める?

相談者だけの話で判断せず、相談者の了承を踏まえて行為者、必要に応じて第三者へと確認を広げます。

最初の面談が終わった後は、必要に応じて事実確認に進みます。

最初に相談者から具体的な事実を確認した後は、行為者からも事情を確認します。

双方の説明が一致しない場合には、必要に応じて、その場にいた職員や事情を知っている第三者から話を聞きます。

また、相談者に無断でいきなり行為者へ確認を始めるのではなく、どのような方法で事実確認を進めるのかをあらかじめ説明しておくことも大切です。

例えば、

相談者 → 行為者 → 必要に応じて目撃者などの第三者

という順番で整理していきます。

ここで重要なのが、

双方を同じ部屋に呼んで話し合わせれば早い、とは限らない

ということです。

相談者が行為者を恐れている場合などには、直接対面させることで相談者の心理的負担が増える可能性があります。

まずはそれぞれから別々に話を聞き、主張の一致点と相違点を整理する方が適切な場合が多いでしょう。

「言った」「言っていない」になったら?

ハラスメント相談では珍しくありません。

そこで、

「証拠がないから何もできない」

と終わらせるのではなく、

  • 目撃者はいるか
  • メールやチャットは残っているか
  • 勤務記録と時系列が一致するか
  • 他にも同様の言動を見聞きした職員がいるか
  • 当事者双方の説明に不自然な点がないか

などを確認していきます。

クリニックだからこそ注意したい相談対応とは?

職員数が少なく人間関係が近いクリニックでは、秘密保持と相談担当者の中立性を特に意識する必要があります。

クリニックでは、大企業のような人事部や専門のハラスメント委員会がないことも多く、院長先生自身が相談を受けるケースがあります。

職員同士の距離も近いため、

「○○さんが院長先生に相談したらしい」

という話が広がれば、それだけで相談者が働きづらくなることがあります。

ハラスメント相談では、相談者だけでなく、行為者とされている職員や事実確認に協力する職員のプライバシーにも配慮する必要があります。

また、相談したことや事実確認に協力したことを理由に、職場で不利益な扱いを受けることがないよう注意しなければなりません。

必要以上に相談内容を共有しない

例えば第三者への聞き取りをするときも、

「○○さんが△△さんからパワハラを受けたと訴えているので全部教えてください」

と必要以上の情報を伝える必要はありません。

確認したい事実に必要な範囲で情報を共有します。

第三者から話を聞く場合も、必要以上に多くの職員へ事情を広げないことが大切です。

「誰が何を相談したのか」を不用意に伝えるのではなく、確認したい事実に必要な範囲だけを尋ね、聞き取りを行った職員にも内容を周囲へ広げないよう伝えます。

行為者が院長先生自身だったら?

例えば職員から、

「院長先生からの言動について相談したい」

と言われる可能性もあります。

この場合、院長先生自身が、

相談を受ける人、調査する人、事実認定する人、処分を決める人

をすべて兼ねれば、中立性を確保することが難しくなります。

そのようなケースでは、外部の弁護士や社会保険労務士など、第三者を相談・調査の過程に入れる方法も検討できます。

院長先生自身が相談の対象となっている場合や、院内だけでは中立的な事実確認が難しい場合には、外部の専門家を相談や調査の過程に入れる方法も考えられます。

例えば、弁護士や社会保険労務士など第三者を入れることで、相談対応と事実確認を院内だけで抱え込まずに進めやすくなります。

ハラスメント相談対応でよくある誤解

相談を受けたからといって、直ちにハラスメント認定や処分をする必要はありませんが、何もしないまま放置することも適切ではありません。

誤解1 まず「ハラスメントかどうか」を判断しなければならない

最初に判断する必要はありません。

むしろ初回面談では、

「それはパワハラですね」

「それは単なる指導でしょう」

と断定しないことが重要です。

まずは相談内容と相談者の状態・希望を確認します。

誤解2 相談を受けたら、すぐ相手を呼び出せばよい

これも注意が必要です。

相談者が、

「まだ相手には知られたくない」

と考えている可能性があります。

まず今後どのように事実確認を進めるかを相談者に説明し、意向を確認してから進めます。

誤解3 本人が「大ごとにしなくていい」と言えば何もしなくてよい

必ずしもそうとは限りません。

例えば暴力が続いているなど、職員の安全確保上、放置することが適切でないケースもあります。

本人の意向を尊重しながらも、事業主として必要な対応を検討する必要があります。

誤解4 相談者の話を信用するか、行為者の話を信用するかを決めればよい

相談対応は「どちらの人を信用するか」を決める作業ではありません。

人物評価ではなく、

今回何があったのか

を事実に基づいて確認していくことが重要です。

新聞輸送事件も、相談担当者が早い段階で一方の説明を信用してしまったことが、適切な事実確認を遅らせる結果につながった事例として参考になります。

まとめ

ハラスメント相談を受けたら、すぐ結論を出すのではなく、相談者の安全・話・意向を確認し、秘密保持に配慮しながら迅速な事実確認につなげます。

職員から、

「ハラスメントを受けています」

と言われると、院長先生としては早く問題を解決しなければと考えると思います。

しかし、早く解決することと、早く結論を出すことは同じではありません。

最初の段階では、

  • 落ち着いて相談者の話を聴く
  • 現在も被害が続いていないか確認する
  • 具体的な出来事を整理する
  • 相談者が何を希望しているか確認する
  • 内容を記録する
  • 今後の事実確認について説明する
  • プライバシーに配慮する
  • 必要に応じて相談者と行為者を一時的に離す

といった対応を考えます。

そのうえで、相談者の了承を踏まえて行為者から事情を確認し、主張が食い違う場合には第三者や客観的な資料も確認していきます。

最初の相談対応で大切なのは、

「誰が悪いのか」を決めることではなく、「何が起きているのかを正確に確認できる状態を作ること」

です。

相談者の話を最初から疑うことも、一方的にすべて事実と決めつけることも避ける。

この姿勢が、その後の公正な事実確認と、職員が安心して相談できるクリニックづくりにつながります。

社会保険労務士 関谷聡のこの記事のポイント

ハラスメント相談の初動では、結論を急がず、相談者の安全・主張・希望を確認して記録し、プライバシーに配慮しながら公平・中立な事実確認へつなげることが重要です。

参考資料

本記事の作成にあたり、主に次の厚生労働省資料を参考にしています。

職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)

職場におけるハラスメント対策(相談窓口担当者向け研修)(令和7年度厚生労働省委託事業)

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この記事を書いた人

「おっきなでんしゃ社会保険労務士事務所」代表の関谷と申します。豊かな自然とあたたかい人々に恵まれたこの新潟の地で、家族とともに日々の暮らしを楽しみながら、社会保険労務士として地域の企業様中心にをサポートさせていただいております。

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