派遣労働者をどう育成する?厚生労働省ガイドブックから考える派遣労働者の育成

こんにちは、新潟市で活動しているおっきなでんしゃ社会保険労務士事務所、社会保険労務士の関谷です。

社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。

2026年3月、厚生労働省から「企業が派遣労働者を『育てて活かす』ためのガイドブック」が公表されました。

この記事では、ガイドブックの内容をもとに、「派遣社員には最初から仕事ができる人に来てもらう」という考え方だけではなく、派遣先としてどのように業務や必要な能力を整理し、派遣元と連携しながら育成していくのかを、実務の順番に沿って考えます。

派遣労働者に限らず、通常の採用活動にも生かせる内容もありますので、ぜひご覧ください。

目次

派遣社員に即戦力を求めても人が見つからないとき、どう考える?

求める条件を満たす人が見つからない場合は、条件を下げるのではなく「入社後に育てられる能力と、最初から必要な能力」を分けて考える方法があります。

「派遣会社にお願いしているけれど、なかなか条件に合う人が見つからない」

「できれば経験者に来てもらいたいが、採用できる人材が限られている」

「派遣社員に仕事を教えて、少しずつ担当業務を広げてもいいのだろうか」

人手不足の会社では、このような場面もあるのではないでしょうか。

こうしたとき、募集条件をそのままにして「条件に合う人が来るまで待つ」だけが選択肢ではありません。

厚生労働省のガイドブックでは、派遣労働者を「特定業務に特定期間だけ従事する即戦力」としてだけではなく、中長期的な視点で能力を高め、その能力をより高度な業務で発揮してもらう「育てて活かす」という考え方が示されています。

当事務所でこのような相談を受けた場合には、まず、

「今の募集条件を満たす人がいるか」ではなく、「この仕事をするために、本当に最初から必要な能力は何か」

というところから整理します。

なぜ派遣労働者を「育てて活かす」という考え方が出てきた?

人材確保が難しくなるなか、派遣労働者も「完成された即戦力」として探すだけでなく、受入れ後の育成まで含めて考えることが人材確保の選択肢になります。

ガイドブックでは、人材ニーズへの対応に関する困りごととして、

  • 業務に必要な能力が十分な人材を採用できない
  • 自社の組織風土に合った人材を見極めることが難しい
  • 労働者が定着せず、短期間で離職してしまう

といった例が挙げられています。

こうした状況では、必要な能力をすべて持っている人を探し続けるだけでは、人材確保が難しくなることがあります。

そこで考えたいのが、

「入ってから身につけられる能力まで、採用時の必須条件にしていないか」

という点です。

たとえば、ある仕事について、

「この業務の経験が3年以上ある人」

と考えていたとしても、本当に必要なのが、

  • 基本的なパソコン操作
  • 類似業務の経験
  • 周囲とコミュニケーションを取りながら仕事を進められること

なのであれば、専門的な部分については受入れ後に育成する方法も考えられます。

ガイドブックでも、必要な能力を「知識」「専門スキル」「行動特性」などに分け、さらに受入れ後に育成できる能力と、育成することが難しい能力を整理する考え方が示されています。

つまり、「条件を満たす人がいないから条件を下げる」のではありません。

仕事を分解して、本当に入口で必要な条件を見直す。

ここが大切なポイントです。

派遣労働者の育成にはどのような考え方がある?

ガイドブックでは「何のために派遣労働者を育てるのか」によって3つの類型に整理されており、自社の目的を先に決めると取組方法を考えやすくなります。

厚生労働省のガイドブックでは、「育てて活かす」方法を大きく3つに整理しています。

1.キャッチアップ型

仕事に必要な能力がまだ十分ではない人を受け入れ、派遣先で育成して、必要な水準まで引き上げる方法です。

たとえば、

「経験者を募集しているが見つからない。類似業務の経験がある人を受け入れて、自社の仕事は入ってから覚えてもらう」

といった考え方です。

ガイドブックでも、求める専門スキルがなくても、類似業務の経験や成長に前向きな姿勢があれば、受入れ後に足りない能力を育成する方法が紹介されています。

2.計画的ステップアップ型

現在の仕事に必要な能力を持つ人を受け入れ、将来的にはさらに高度な仕事を担当してもらうことを想定して育成する方法です。

単に「今の仕事ができればよい」と考えるのではなく、

「半年後、1年後には、どのような仕事まで担当してもらいたいか」

という視点で育成を考えます。

3.選択的ステップアップ型

派遣労働者として働いている人のなかから、働きぶりや将来性などを踏まえて、より高度な仕事や正社員としての活躍を想定して育成する方法です。

大切なのは、どの方法が優れているかではありません。

会社が派遣労働者を受け入れる目的に合っているかどうかです。

当事務所なら最初に何を確認する?

当事務所では「どんな人を派遣してほしいか」より先に、「何を任せたいのか・何が必要なのか・何なら入ってから育てられるのか」を整理します。

派遣社員の採用がうまくいかないと、

「もっと経験のある人はいませんか」

「○○ができる人でお願いします」

と、人の条件から考えたくなります。

しかし、当事務所では、まず仕事の側を整理します。

確認する順番は、おおむね次のようになります。

  1. 何の仕事を任せたいのか
  2. その仕事には、どのような能力が必要なのか
  3. その能力は最初から必要なのか
  4. 入ってから教えられるものは何か
  5. 誰が、どのように教えるのか
  6. 将来的にどこまで仕事を広げたいのか

ガイドブックでも、最初の手順として「派遣労働者に任せたい業務と必要な能力を整理する」ことが示されています。

この順番で考えると、

「経験5年以上」

のような条件そのものではなく、

「なぜ、その経験が必要なのか」

を確認できるようになります。

結果として、「実はこの部分はOJTで教えられる」「この能力だけは受入れ時点で必要」といった整理がしやすくなります。

派遣労働者を育てるときはどのような順番で進める?

育成は受入れ後に突然始めるものではなく、業務整理→派遣元との調整→仕事内容の共有→受入れ→育成→見直しという流れで準備することがポイントです。

ガイドブックのキャッチアップ型と計画的ステップアップ型では、基本的に次の5つの手順が示されています。

1.任せたい業務と必要な能力を整理する

最初に、

「何をやってもらうのか」

を具体的にします。

ここが曖昧なまま「いい人をお願いします」と派遣元に依頼すると、会社と派遣元で求める人材像がずれてしまう可能性があります。

2.派遣労働者に求める条件を派遣元と調整する

次に、整理した条件を派遣元へ伝えます。

ポイントは、単に条件を伝えるだけではなく、

「ここは必須」

「ここは入ってから教えられる」

「将来的にはこの業務まで任せたい」

と分けて伝えることです。

求める人材像や能力を派遣元に伝え、派遣元のキャリア形成支援などにも協力してもらうことが有効だとガイドブックでも示されています。

3.業務内容や職場環境を理解してもらう

受入れ前後では、仕事内容だけではなく、職場でどのように仕事を進めるのかについて認識を合わせることも大切です。

「聞いていた仕事と違った」

という状況をできるだけ避けるためにも、派遣元との情報共有を丁寧に行います。

4.育成する

受入れ後は、OJT、研修、面談などを組み合わせながら育成します。

ガイドブックに掲載された調査では、派遣労働者への教育訓練を実施している派遣先は93.7%で、その中心はOJTでした。

ただし、単に「現場で教えてください」では十分とは限りません。

キャッチアップ型では、業務を補助しながら習熟度を確認するメンターを付けたり、

「未経験」

「補助があればできる」

「独力でできる」

「指導できる」

といった形で習熟度を段階的に整理する方法も紹介されています。

計画的なステップアップを考える場合には、

「いつまでに、何を身につけるのか」

「そのために、いつ、どのような育成を行うのか」

まで育成計画にしておくと、本人・現場・派遣元で認識を共有しやすくなります。

5.受入方法を見直す

育成して終わりではありません。

「予定したところまで仕事ができるようになったか」

「育成方法は合っていたか」

「さらに担当できる業務はあるか」

「派遣元との情報共有は十分だったか」

などを確認し、次の受入れにつなげます。

この「受け入れる→育てる→振り返る」という流れをつくることが、派遣社員を継続的に活かす仕組みにつながります。

会社として気をつけたいポイントは?

派遣労働者を育成する場合でも、派遣契約との整合性や派遣元との役割分担を確認しながら進めることが重要です。

「能力が上がったから、今度からこの仕事もお願いしよう」

という場面では注意が必要です。

ガイドブックでは、労働者派遣契約に定めていない仕事に派遣労働者を従事させることはできないとして、事前に任せたい業務を具体的に決める必要があると説明しています。

つまり、

育成によってできる仕事が増えたことと、その仕事をそのまま任せてよいことは別に考える必要があります。

業務を広げる場合には、

  • 現在の派遣契約ではどの業務まで予定されているか
  • 業務に伴う責任の程度はどうなっているか
  • 派遣元との調整が必要ではないか
  • 育成やキャリア形成について派遣元とどのように役割分担するか

といった点も確認したいところです。

育成だけを単独で考えるのではなく、

「契約→受入れ→育成→業務の変更→評価」

まで一続きの労務管理として整理することが大切です。

派遣労働者の育成で勘違いしやすいポイントは?

「長く活躍してほしいから自社に合う人を選びたい」と考えても、通常の派遣では派遣先が自由に採用選考できるわけではない点に注意が必要です。

「育てたい人を派遣先が面接して選べばいい」は注意

中長期的に育てるとなると、

「それなら一度本人と面接して、自社に合う人か確認したい」

と思うかもしれません。

しかし、ガイドブックでは「特定目的行為の禁止」についても注意喚起しています。

通常の労働者派遣では、派遣先が契約前に面接したり、派遣元へ履歴書・職務経歴書の送付を依頼したり、性別や年齢に条件をつけたりするなど、派遣労働者を特定することを目的とした行為は禁止されています。

そのため、

「自社に合う人材を育てたい」という目的と、「派遣先が採用選考すること」は分けて考える必要があります。

自社で必要な能力や職場環境、人材像を整理したうえで派遣元へ伝え、派遣元と連携して受入れを進める、という考え方が基本になります。

なお、直接雇用を予定して派遣を受け入れる「紹介予定派遣」については通常の派遣と取扱いが異なりますので、目的に応じて制度を整理する必要があります。

派遣労働者の育成についてよくある質問

派遣労働者の育成では「教えてよいか」だけではなく、何を目指して、誰と連携して、どこまで仕事を任せるのかをセットで考えることがポイントです。

Q1.派遣社員にも自社で仕事を教えていいのでしょうか?

ガイドブックでは、派遣先によるOJTや各種研修など、さまざまな教育訓練の実施例が紹介されています。

実際に、ガイドブック掲載の調査では、派遣先企業の93.7%が派遣労働者を対象に教育訓練を実施しているとされています。

ただし、具体的な実施方法については、派遣契約の内容や派遣元との役割分担なども確認しながら進めることが大切です。

Q2.未経験の人を派遣で受け入れてもいいのでしょうか?

ガイドブックでは、必要な能力に満たない人を受け入れ、育成によって必要な水準まで引き上げる「キャッチアップ型」が紹介されています。

ポイントは、単純に採用条件を緩めることではありません。

「受入れ後に教えられること」と「受入れ時点で必要なこと」を整理したうえで、派遣元と条件を調整します。

Q3.将来的に正社員になってもらうことも考えてよいのでしょうか?

ガイドブックでは、働きぶりや将来性を見ながら正社員として活かしたい人を育成する「選択的ステップアップ型」も紹介されています。

また、最初から直接雇用を予定して受け入れる場合については「紹介予定派遣」という仕組みも紹介されています。

どの方法をとるかは、「最初から直接雇用を想定しているのか」「働きぶりを見た結果として直接雇用を検討するのか」など、会社の目的を整理して考えることが重要です。

Q4.育成計画はどこまで細かく作ればよいですか?

少なくとも、

「何を身につけてもらいたいのか」

「いつまでに身につけるのか」

「そのために何をするのか」

が分かるようにしておくと、実務では進めやすくなります。

ガイドブックでも、将来求められる能力について、習得時期と育成方法を整理して育成計画を作成し、職場の管理者等と共有する方法が示されています。

計画を作ること自体が目的ではなく、本人・現場・派遣元で「どこを目指しているのか」を共有できることが大切です。

まとめ

派遣労働者を「育てて活かす」には、人を探すところから始めるのではなく、仕事と必要な能力を整理し、派遣元と育成まで見据えて受入れを設計することが重要です。

派遣社員というと、

「必要な仕事ができる即戦力を派遣してもらう」

というイメージがあるかもしれません。

もちろん、それが適しているケースもあります。

一方で、人材確保が難しい状況では、必要な能力をすべて備えた人を探し続けるだけではなく、

「何が最初から必要で、何なら入ってから育てられるのか」

を整理することも一つの方法です。

当事務所であれば、

任せたい仕事を決める
② 必要な能力を分解する
③ 最初から必要な能力と育成できる能力を分ける
④ 派遣元と条件を調整する
⑤ 育成方法を決める
⑥ 習熟度を確認する
⑦ 業務や受入方法を見直す

という順番で考えます。

厚生労働省のガイドブックが示している「育てて活かす」という考え方で特に参考になるのは、単に研修を増やすことではなく、派遣労働者を受け入れる目的から逆算して、募集・受入れ・育成・その後の活用までを一体で考えている点ではないでしょうか。

社会保険労務士 関谷聡のこの記事のポイント

派遣労働者の活用では「即戦力が見つからない」で止まらず、任せる仕事と必要な能力を整理し、派遣元と連携して「育てて活かせる仕組み」をつくることが人材確保の選択肢になります。

※この記事は、厚生労働省「企業が派遣労働者を『育てて活かす』ためのガイドブック」(2026年3月)をもとに、派遣先企業が実務を考える際のポイントを整理したものです。実際の対応は、派遣契約の内容や派遣形態、具体的な業務等によって異なる場合があります。

公式資料

企業が派遣労働者を「育てて活かす」ためのガイドブック(厚生労働省)

お問い合わせについて

当事務所が大切にしている労務管理の考え方

当事務所では、「労使双方が制度を正しく理解し、日頃から話し合える職場づくりが、労使トラブルの予防につながる」と考えています。

労使トラブルは、問題が起きてから対応するよりも、未然に防ぐことが大切です。

トラブルの多くは、制度を知らなかったことや、事前の認識の違いから生じます。

日頃からルールを整え、制度を正しく理解しておくことで、防げるトラブルは少なくありません。

社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。

そのため、就業規則の作成・変更や労働・社会保険の各種手続きだけでなく、日々の労務相談を通じた「予防型」の労務管理にも力を入れています。

「この対応で本当に大丈夫だろうか」

「まだトラブルにはなっていないが、一度専門家に確認しておきたい」

そのようなお悩みや、「まだ相談するほどではないかもしれない」と感じる内容でも、お気軽にご相談ください。

このようなサポートを行っています

就業規則の作成から日々の労務相談、総務・人事業務のアウトソーシングまで幅広く対応しています。

例えば、次のようなサポートをご提供しています。

  • 就業規則や社内規程の作成・見直し
  • 日々の労務相談
  • ハラスメント防止体制の整備・ご相談
  • 社会保険・労働保険の各種手続き
  • 社会保険の定時決定(算定基礎届)や労働保険の年度更新などの定期業務
  • 助成金のご相談・申請支援

このようなご相談をいただいています

日々の労務相談では、次のようなご相談をいただくことが多くあります。

  • 担当者がいないため、人事・労務業務を任せたい
  • 本業に集中できる体制を整えたい
  • 制度改正への対応に不安がある
  • 人事・労務について気軽に相談できる相手がほしい

人事・労務に関することでしたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。

ご相談・お問い合わせ方法

ご相談・お問い合わせは、お問い合わせフォームまたは公式LINEから受け付けています。

また、法改正や制度改正など、実務に影響のある最新情報をブログで公開した際には、公式LINEでご案内しています。

制度を正しく理解し、安心して働ける職場づくりをお手伝いいたします。

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

「おっきなでんしゃ社会保険労務士事務所」代表の関谷と申します。豊かな自然とあたたかい人々に恵まれたこの新潟の地で、家族とともに日々の暮らしを楽しみながら、社会保険労務士として地域の企業様中心にをサポートさせていただいております。

コメント

コメントする

目次