
こんにちは、新潟市で活動しているおっきなでんしゃ社会保険労務士事務所、社会保険労務士の関谷です。
社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。
「月給で支払っている従業員について、最低賃金を満たしているかはどう確認すればよいのでしょうか」というご相談があります。
この記事では、神奈川労働局が公表している具体的な計算例をもとに、最低賃金の対象となる賃金の整理から、月給を時間額に換算して確認するまでの考え方を、会社の実務に沿って解説します。
月給が高ければ最低賃金は問題ない?
月給の総額だけでは最低賃金を満たしているか判断できないため、給与の内訳と所定労働時間まで確認することが大切です。
「月給24万円を支払っているから、最低賃金は問題ないだろう」
このように考えることがあるかもしれません。
時給制であれば、時給と最低賃金を比較するため、比較的分かりやすいでしょう。
一方、月給制の場合は少し考え方が異なります。
最低賃金は時間額で定められているため、月給を時間当たりの金額に換算して比較する必要があるからです。
さらに、ここでもう一つ重要なポイントがあります。
それは、
給与明細に記載されている総支給額を、そのまま最低賃金の計算に使うわけではない
ということです。
給与の中には、最低賃金との比較に含めるものと、含めないものがあります。
そのため会社としては、
「月給はいくらか」
だけを見るのではなく、
「その月給は何で構成されているのか」
まで確認する必要があります。
月給制の最低賃金はどうやって確認する?
月給制では、最低賃金の対象となる月給額を年間総所定労働時間で時間額に換算すると、最低賃金を満たしているか確認できます。
神奈川労働局のホームページでは、月給制について次の考え方で最低賃金と比較する計算例を示しています。
月給額 × 12か月 ÷ 年間総所定労働時間 ≧ 最低賃金額
ここで大切なのは、計算式そのものを覚えることだけではありません。
実務では、
「この計算式に、どの数字を入れるのか」
を正しく整理することも重要です。
特に確認したいのが、次の2つです。
- 最低賃金の対象となる月給額
- 年間総所定労働時間
この2つを整理してから、時間額に換算します。
たとえば、給与明細の総支給額が24万円だったとしても、必ず24万円を計算式に入れるとは限りません。
最低賃金との比較から除外する賃金が含まれている場合には、それを除いて考える必要があります。
そのため、計算する前に給与の中身を見ることが重要になります。
最低賃金の計算にはどの賃金を入れる?
最低賃金を確認するときは給与の総支給額をそのまま使わず、「最低賃金の対象となる賃金」と「対象から除外する賃金」を最初に整理します。
厚生労働省「最低賃金制度の概要」では、
「最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。支払われる賃金から一部の賃金(割増賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当など)を除いたものが対象となります」
とされています。
会社として最低賃金を確認するときは、まず給与明細や賃金台帳などを見ながら、
「何を最低賃金の計算に入れて、何を除くのか」
を整理することが大切です。
最低賃金の対象から除外される賃金は6つ
厚生労働省では、最低賃金との比較から除外する賃金として、次の6つを示しています。
① 臨時に支払われる賃金
たとえば、結婚手当などです。
毎月通常支払われる給与ではなく、特定の事情が生じたときに臨時に支払われるものは、最低賃金との比較から除外します。
② 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
代表的なものが賞与です。
ここで注意したいのは、
「賞与まで含めれば年収は高いから、最低賃金は問題ない」
とは考えないということです。
最低賃金を確認するときには、最低賃金の対象となる賃金を使って比較します。
③ 所定労働時間を超えて働いたことに対して支払われる賃金
時間外労働に対して支払われる賃金などです。
残業をしたことで毎月の給与が増えていたとしても、その増えた分を含めて、
「これだけ給与を払っているから最低賃金以上だろう」
と判断するものではありません。
④ 所定労働日以外の日に働いたことに対して支払われる賃金
休日労働に対して支払われる賃金などです。
こちらも、通常の所定労働に対して支払われる賃金とは分けて考えます。
⑤ 深夜労働について通常の労働時間の賃金を超えて支払われる部分
午後10時から午前5時までの深夜労働について支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金を超える部分です。
たとえば、深夜労働に対する割増部分などが該当します。
⑥ 精皆勤手当・通勤手当・家族手当
実務上、特に注意したいのがこの3つです。
会社によっては、
- 基本給
- 精皆勤手当
- 通勤手当
- 家族手当
などを給していることがあります。
給与明細の総支給額だけを見ると、最低賃金を十分に上回っているように見えるかもしれません。
しかし、精皆勤手当・通勤手当・家族手当は最低賃金との比較から除外します。
そのため、
「総支給額はいくらか」ではなく、「そのうち最低賃金との比較に使う賃金はいくらか」
を見る必要があります。
「手当は全部除外する」という意味ではありません
ここは特に勘違いしやすいところです。
最低賃金との比較から除外するものに「精皆勤手当・通勤手当・家族手当」があるからといって、
「○○手当という名前が付いていれば、全部除外する」
という意味ではありません。
また、
「最低賃金は基本給だけで確認すればよい」
という意味でもありません。
実際に、神奈川労働局が公表している計算例をみてみると、住宅手当を最低賃金との比較に含めています。
そのため、給与明細を見るときには、
「基本給か、手当か」
だけで分けるのではなく、
その賃金が最低賃金との比較対象になるものなのか
という視点で確認することが大切です。
また、実際の会社では「職務手当」「業務手当」「調整手当」など、さまざまな名称の手当があります。
名称だけでは判断しにくい場合には、賃金規程や雇用契約書などを確認し、どのような趣旨・条件で支給しているものなのかを整理し、「精皆勤手当・通勤手当・家族手当」に該当する手当なのかを確認する必要があります。
神奈川労働局の計算例ではどうなる?
神奈川労働局の例では月給24万円でも最低賃金との比較対象は20万5,000円となっており、総支給額だけでは判断できないことが分かります。
ここまでの内容を、神奈川労働局が公表している具体例で確認してみましょう。
この例では、次の労働条件が設定されています。
- 年間所定労働日数:255日
- 1日の所定労働時間:8時間
- 月給:240,000円
月給24万円の内訳は、次のようになっています。
- 基本給:190,000円
- 住宅手当:15,000円
- 精皆勤手当:10,000円
- 家族手当:20,000円
- 通勤手当:5,000円
給与明細の総支給額だけを見れば、24万円です。
しかし、この24万円をそのまま最低賃金の計算に使うわけではありません。
最低賃金との比較から除外される、
精皆勤手当10,000円、家族手当20,000円、通勤手当5,000円
を除きます。
一方、住宅手当15,000円は、最低賃金との比較に含まれています。
そのため、最低賃金との比較に使う月給額は、
基本給190,000円+住宅手当15,000円=205,000円
となります。
つまり、
総支給額240,000円 → 最低賃金との比較対象205,000円
となるわけです。
この違いが、今回の記事で特にお伝えしたいポイントです。
次に年間総所定労働時間を確認する
次は、年間総所定労働時間です。
労働条件はは、
年間所定労働日数255日 × 1日の所定労働時間8時間
なので、
年間総所定労働時間は2,040時間
となります。
先ほど整理した最低賃金の対象となる月給額205,000円を使って、時間額に換算します。
205,000円 × 12か月 ÷ 2,040時間= 約1,205.88円
となります。
神奈川労働局の例では、令和7年10月4日からの神奈川県最低賃金である時間額1,225円と比較しています。
したがって、
約1,205.88円 < 1,225円
となり、最低賃金を満たしていないという結果になります。
この例から会社として何を読み取る?
この例で重要なのは、
「24万円でも最低賃金を下回ることがある」
という数字そのものだけではありません。
会社の実務として参考にしたいのは、
どのような順番で確認しているか
です。
まず、月給24万円という総額を見る。
次に、その内訳を確認する。
そして、最低賃金との比較から除外する賃金を整理する。
その結果、比較対象となる月給額を20万5,000円とする。
さらに、年間総所定労働時間を確認して時間額に換算する。
最後に、適用される最低賃金と比較する。
つまり、
給与総額を見るだけではなく、「賃金の中身」と「所定労働時間」の両方を確認する
ことがポイントです。
最低賃金をどの順番で確認する?
当事務所では「適用される最低賃金→給与の内訳→対象賃金→年間総所定労働時間→時間額」の順番で整理すると確認しやすいと考えています。
最低賃金を確認するときに、いきなり計算を始めると分かりにくくなります。
当事務所では、一般的には次の順番で整理します。
まず、その従業員に適用される最低賃金を確認します。
地域別最低賃金だけでなく、業種によっては特定最低賃金が関係する場合もあります。
また、派遣労働者については派遣先の最低賃金が適用されるため、働き方も確認します。
「最低賃金はいくらか」を調べるだけでなく、その従業員にどの最低賃金が適用されるのかから確認するのが最初のステップです。
次に、給与明細や賃金台帳などを確認します。
たとえば、
- 基本給
- 各種手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 精皆勤手当
- 時間外手当
など、何が支払われているかを確認します。
ここでは「月給24万円」という総額だけではなく、
その24万円が何で構成されているのか
を見ることがポイントです。
給与の内訳が分かったら、
最低賃金との比較に含めるもの最低賃金との比較から除外するもの
に整理します。
この段階で、臨時に支払われる賃金や賞与、時間外・休日・深夜労働に関する一定の賃金、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などが含まれていないか確認します。
会社独自の手当がある場合には、名称だけではなく、その手当がどのような趣旨で支払われているのかも確認します。
次に確認するのが、年間総所定労働時間です。
先程の計算例では、
年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間
で計算しています。
ここでは、
- 就業規則
- 雇用契約書
- 年間カレンダー
なども確認しておきたいところです。
給与だけを確認して終わるのではなく、会社が設定している所定労働時間とセットで見ることが大切です。
ここまで整理できたら、
最低賃金の対象となる月給額 × 12か月 ÷ 年間総所定労働時間
で時間額に換算します。
最後に、算出した時間額と、その従業員に適用される最低賃金を比較します。
このように考えると、最低賃金の確認は単なる割り算ではありません。
「計算する前の条件整理が大切」だということがお分かりいただけたと思います。
会社として気をつけたいポイントは?
最低賃金は改定時だけでなく、給与体系や手当、年間カレンダーを変更したときにも確認すると、実際の労働条件とのズレを防ぎやすくなります。
最低賃金は改定されることがあります。
そのため、
「採用したときに確認したから大丈夫」
「去年も問題なかったから今年も大丈夫」
とは限りません。
特に会社として確認しておきたいのは、次のようなタイミングです。
・最低賃金が改定されたとき
・新しく従業員を採用するとき
・基本給を変更するとき
・手当を新設・変更するとき
・賃金制度を見直すとき
・年間休日を変更するとき
・1日の所定労働時間を変更するとき
最低賃金というと、どうしても「給与の金額だけの話」と考えがちです。
しかし、月給制の場合は年間総所定労働時間も計算に関係します。
たとえば、給与額が変わっていなくても、年間休日や所定労働時間を変更すれば、時間額に換算した結果が変わる可能性があります。
そのため、
「給与」と「会社カレンダー」をセットで確認する
という視点を持っておくとよいと考えています。
最低賃金に近い従業員だけ確認すればよい?
実務上は、最低賃金に近い給与水準の従業員から確認する方法も考えられます。
ただし、総支給額だけを見て「この人は最低賃金から十分離れている」と判断すると、今回の神奈川労働局の例のように、最低賃金との比較から除外する手当が多く含まれている可能性があります。
そのため、最低賃金の改定時などには、
「総支給額」だけではなく「最低賃金の対象となる賃金額」で見る
ことが大切です。
最低賃金で勘違いしやすいポイントは?
最低賃金は総支給額や年収だけでは判断できず、対象となる賃金と所定労働時間を整理して確認する必要があります。
勘違い① 月給が高ければ大丈夫
月給の総支給額だけでは判断できません。
同じ月給でも、最低賃金との比較から除外する賃金がどのくらい含まれているかによって結果が変わります。
神奈川労働局の例でも、総支給額24万円に対して、最低賃金との比較対象となったのは20万5,000円です。
勘違い② 給与明細の総支給額を使えばよい
総支給額をそのまま計算に使うとは限りません。
まず給与の内訳を確認し、最低賃金との比較に含めるものと除外するものを整理します。
勘違い③ 手当は全部除外すればよい
これも違います。
「手当」という名称だけを理由に、すべて最低賃金の計算から除外するわけではありません。
神奈川労働局の例では、住宅手当は最低賃金との比較に含めています。
会社独自の手当については、その名称だけでなく、実際の内容も確認することが大切です。
勘違い④ 賞与を含めた年収が高ければ大丈夫
賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は、最低賃金との比較から除外されます。
そのため、
「賞与まで含めれば年収は十分高い」
という考え方だけでは、最低賃金を満たしているか確認できません。
勘違い⑤ 残業代を含めれば最低賃金を超えるから大丈夫
時間外労働に対して支払われる賃金についても、最低賃金との比較から除外されるものがあります。
残業をした結果として給与総額が増えているから最低賃金を満たしている、という考え方ではありません。
勘違い⑥ 毎月の実際の労働時間で割ればよい
神奈川労働局が示している月給制の計算例でもわかるように、
月給額 × 12か月 ÷ 年間総所定労働時間
によって時間額に換算しています。
「今月実際に何時間働いたか」だけを見るのではなく、所定労働時間を確認することがポイントです。
月給制の最低賃金についてよくある質問
最低賃金の確認では、手当の扱いや所定労働時間など会社ごとの条件を整理してから判断することが大切です。
Q. 月給が最低賃金を上回っているか、まず何を確認すればよいですか?
当事務所では、まず次の3つを確認すると整理しやすいと考えています。
① 適用される最低賃金
② 最低賃金の対象となる月給額
③ 年間総所定労働時間
月給制の場合、この3つが分かれば、時間額に換算して比較できます。
ただし、②の月給額を確認するときには、給与の総支給額をそのまま使わず、給与の内訳を確認することがポイントです。
Q. 基本給だけで最低賃金を確認すればよいですか?
必ずしも基本給だけとは限りません。
神奈川労働局の例でも、基本給19万円だけでなく、住宅手当1万5,000円も含めて20万5,000円を比較対象としています。
そのため、
「基本給だけを見る」「総支給額を全部入れる」
のどちらかに決めつけるのではなく、最低賃金の対象となる賃金を整理することが大切です。
Q. 手当はすべて最低賃金の計算から除外しますか?
いいえ。
手当だからすべて除外するというわけではありません。
厚生労働省では、精皆勤手当、通勤手当、家族手当などを最低賃金との比較から除外するものとして示しています。
会社独自の名称の手当については、名称だけでは判断せず、どのような内容の賃金なのかを確認して整理することが大切です。
Q. 最低賃金が改定されたら何をすればよいですか?
まず、改定後の最低賃金と適用日を確認します。
そのうえで、対象となる従業員について、
給与の内訳 → 最低賃金の対象となる賃金 → 年間総所定労働時間 → 時間額
の順番で確認すると整理しやすくなります。
最低賃金に近い給与水準の場合には、改定後の金額を下回らないか、施行前に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
月給制の最低賃金は「月給はいくらか」だけで判断せず、対象となる賃金を整理し、年間総所定労働時間から時間額に換算して確認することがポイントです。
月給制の従業員について最低賃金を確認するときは、
「月給が○万円だから大丈夫」
と判断するのではなく、まず給与の中身を見ることが大切です。
今回ご紹介した神奈川労働局の例では、総支給額は24万円でした。
しかし、精皆勤手当・家族手当・通勤手当を除外した結果、最低賃金との比較に使われたのは20万5,000円です。
そこから年間総所定労働時間を使って時間額に換算し、適用される最低賃金と比較しています。
当事務所では、最低賃金を確認するときには、次の順番で整理すると分かりやすいと考えています。
最低賃金の確認で大切なのは、計算式だけを覚えることではありません。
「何を計算に入れるのか」「どの労働時間を使うのか」
という計算前の条件整理が、実務では重要です。

社会保険労務士 関谷聡のこの記事のポイント
月給制の最低賃金は、総支給額だけで判断せず、「対象となる賃金を整理する→年間総所定労働時間を確認する→時間額に換算する」という順番で確認することが大切です。
最低賃金は改定されることがあり、適用される最低賃金や実際の労働条件によって確認すべき内容も異なります。
実際に確認する際は、厚生労働省や都道府県労働局などが公表している最新情報をご確認ください。
参考資料
最低賃金の計算例【賃金室】(神奈川労働局)
最低賃金の対象となる賃金(厚生労働省)
最低賃金制度の概要(厚生労働省)
お問い合わせについて
当事務所が大切にしている労務管理の考え方
当事務所では、「労使双方が制度を正しく理解し、日頃から話し合える職場づくりが、労使トラブルの予防につながる」と考えています。
労使トラブルは、問題が起きてから対応するよりも、未然に防ぐことが大切です。
トラブルの多くは、制度を知らなかったことや、事前の認識の違いから生じます。
日頃からルールを整え、制度を正しく理解しておくことで、防げるトラブルは少なくありません。
社会保険労務士として、法令に基づいた適切な労務管理を通じて、働く方が安心して働ける職場づくりと、経営者が本業に専念できる環境づくりをサポートしています。
そのため、就業規則の作成・変更や労働・社会保険の各種手続きだけでなく、日々の労務相談を通じた「予防型」の労務管理にも力を入れています。
「この対応で本当に大丈夫だろうか」
「まだトラブルにはなっていないが、一度専門家に確認しておきたい」
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